つみほ スレスレなるままに

現実と非現実の境目をふらふらと往き来するかのような日常の記録

お節介だったのかな。

街を歩いていたら、とあるバス停で

犬を連れたお婆さんを見かけた。

そこまでは普段よく見かける光景

だったんだけど

やがてバスが到着して事件は起きた。

 

どうやらこのお婆さん、

バスに乗りたいらしいのだ。

 

よくみると目が見えていないらしい。

そう言えば、連れてる犬はどうやら

盲導犬のようだ。

 

お婆さんはバス停の

黄色い点字帯の辺りに立っていたのだが

明らかにバスの乗降口とはズレている。

つまり、バスが

本来止まるべき場所から2メートルくらい

進んだところに止まったために

お婆さんは乗降口に辿り着けず

バスのお尻の辺りを手探りしているのだ。

「危ない!」

僕は咄嗟に思った。

思ったら体が動いていた。

お婆さんに駆け寄り、

とりあえずバスから引き離した。

 

「バスに乗りたいの?」

僕が尋ねて、お婆さんが頷くのとほぼ同時に

バスが乗降口を閉めて走り出そうとした。

 

僕はとりあえずバスに近づき

乗降口辺りをノックして

運転士に待ってくれるよう合図をした。

バスはすぐに停車して乗降口を開けてくれた。

 

僕はお婆さんの元に戻り

腕をとってバスの乗降口へと誘導した。

そこにバスの運転士から声が掛かる。

 

「○○バスに乗りたいのかな?」

お婆さんの耳には届いていないようだ。

僕がお婆さんに伝える。

「○○バスに乗るので良いのかな?」

 

お婆さんの答えは

「どのバスでも良いんです」

 

僕はお婆さんの手を取り、

盲導犬と共にバスに乗り込ませた。

「どのバスでも大丈夫って

 言っておられます」

そうバスの運転士さんに伝えた。

 

お婆さんが乗り込んでも

バスはなかなか発車しなかった。

僕は心配に思いながら

しばらくバスを見守っていた。

そうしてから、ハタと気づいた。

 

犬がいたのに全然、躊躇わなかったな。

 

僕は犬が苦手だ。

小さい頃、キャンキャンとやたら吠える

小さな犬にさんざ追いかけ回された挙句に

足首を噛まれ、怪我をしたからだ。

それだけじゃない。

一心不乱にエサを食べている犬にさえ

わざわざ顔をあげて吠えられる毎日だからだ。

 

大きな犬のほうが泰然としてるからか

怖くないなんて、おかしいだろうか。

 

盲導犬とは言え、犬は犬だ。

バス停のお婆さんに気づいたのも

言わば連れている犬を警戒したためだった。

 

でもお婆さんを見ていて

「危ない!」と思った瞬間、

犬のことが意識から消えた。

 

そう言えば、運転士とやり取りしてる間、

お婆さんをバスの乗降口に誘導してる間、

絶えず盲導犬の体毛が

僕の膝とか脛にサワサワと触れていた

感覚が残ってる。

 

結局その後、バスは

お婆さんを乗せたまま発車していった。

あの後どうなったのかは分からない。

 

お婆さんは思ったとおりの場所に

辿り着けたんだろうか。

僕のしたことは

ただのお節介だったんだろうか。

 

件の場所は、

市営バスと私鉄バスの二路線のバス停が

ほんの数メートル離れた場所に存在してる

もう少しバス停が離れていれば、

前側のバス停に止まったバスの後部が

後ろ側のバス停の乗降口に重なることは

ないはずだ。

バスの大型化、長体化で、重なるように

なってしまったのかもしれない。

 

バリアフリーが叫ばれて久しいけれど

こんな場面に出会すと

やはりまだまだだなあと思えてくる。

バリアフリーがまだまだ、

健常者の視点で進められているからだと

指摘する声もあるけれど、

どの視点であれ、

思いやりとほんの少しの想像力があれば

みんなが安心して暮らせる

バリアフリーな社会は実現できるんじゃ

ないかな。