今週のお題「人生最大の危機」
これは遠い遠い昔の話。
私が、後にカミさんになる彼女と結婚を前提に付き合い始める少し前の話です。
当時の私は既に社会人でしたが、冬場はスノボに明け暮れる毎日で、寒さに弱いのを公言していた彼女とはすれ違う日々を送っていました。また彼女は、スキーはするのですがスノボには全く興味がなく、接点がなかなか見出せないまま月日が過ぎていきました。
私自身は彼女といずれは所帯を持ちたいと考えていました。
それで、あるとき思い切ってスキー旅行に誘ってみました。
もちろん二人きりの旅行ではありません。6人くらいの仲間うちでの旅行でした。
実は私、あまりバスは得意ではありません。
車酔いがひどいためです。
でも仲間の一人が予約してくれたスキーバスは、当時としてはハイクラス。スペシャルクラスと言ってもいいくらいの豪華バスで、全席リクライニングシート。個々の座席の間隔も半端なく広く、足を伸ばして背伸びをしても前後席とぶつからないという仕様設定でした。
これなら終始寝たままでもオッケーだね、と軽口を叩いていた覚えがあります。
行きも帰りもこの仕様のバス利用だったので旅費も半端なく高額になりましたが、彼女との初めてのスキー旅行が失敗しなくて済むように、万全の態勢を敷いて臨んだわけです。
というのも、それまで付き合った女性とは、仲良くなるはずの旅行やデートに出掛けた先で、まさか起こり得ないようなハプニングに出くわし破談に至るケースが続けざまに起こっていたからです。
それに、、これまで付き合った女性も確かに大好きだった気持ちに嘘はないけど、将来は所帯を持ちたいと具体的・現実的に考えるまでには至りませんでした。お互いに一種の憧れのような感覚で結婚を意識したことがある、という程度に過ぎなかったのです。
でもこの彼女とは、できるなら所帯を持ちたかった。毎日を同じ目線で見て一緒に暮らして行きたかったのです。そのためにも、偶然にせよ必然にせよ失敗は許されませんでした。
旅程は滞りなく進み、彼女との距離はぐーんと近くなりました。
周りの友人たちも応援してくれて、あとはもうプロポーズだけだな、みたいに冷やかされたりもしました。
最終日の日程を終え、あとは復路のバスに乗って地元に戻るだけ、、という段になってとんでもないハプニングが発生しました。
豪華なスキーバスを予約しバカ高い料金を支払った私たち一行を待っていたのは、超格安プランでもこの設定はないだろうと言えるくらい、ほとんど路線バスに毛が生えたレベルのスキーバスでした!!
おまけに割り当てられた座席と来たら最後部の座席、一応座席らしい場所にはなっているのですが、たぶん普段は荷物置き場になっている場所に臨時の即席の補助シートを取り付けたとしか思えない最悪の座席。無理して座ろうにも、防寒服で着膨れしている身には相当つらいものがありました。
実を言えばその席は、よりによって彼女に割り当てられた席でした。
でもさすがにこんな席に彼女を座らせてノホホンとしていられるほど私は脳天気ではありませんでしたので、席替えを提案したのです。これが後に私にとっての、正に人生最大の危機を招くことになるとは!!
スキーバスツアー会社に連絡して、事態の収拾というか改善を申し入れるなどギリギリまで交渉を続けましたが、結局そのバスを利用する以外に、その日のうち、あるいは翌朝の早朝に地元に戻れる手段はないことが確定しました。
バスツアー会社は、翌朝に特別チャーターしたバスで帰ることを提案してくれまして、何人かの仲間は翌日、それを利用することになりましたが、肝腎の彼女は家庭の事情で、元のバスで帰るしか選択肢がありません。当然、彼女を一人で帰らせる選択肢は私にもありませんでした。
結局、私たちは翌日組と当日組の二手に分かれて帰ることになりました。
とにかく眠ってやり過ごしていればその間に地元に戻れるだろうと目論んでいました。けれどもその席は超狭いだけでなく、元々が荷物置き場の場所に臨時誂えしただけということで、底冷えのする座席でした。また、当然乗り心地に配慮しているはずもなく、だんだんと気分が悪くなって来ました。
更にはお腹が冷えてクダリ始めたから堪りません。
冷や汗をダラダラ流しながら腹痛に堪える訳ですが、いつ糞尿撒き散らすことになるか分かりません。
バスの中はスキーからの帰り客でいっぱいでしたが、満席ギュウギュウ詰めのバスの中でどうというより、彼女の前でそんなことになったら。。。
どう考えてもお終いですよね(脂汗)。。。
そのとき、天の僥倖が舞い降りたのです。
折からの降雪でスキーバスが一時立ち往生したのですが、そこは某ドライブインの真ん前でした。看板に大きく「当店利用者以外のトイレ利用は2000円貰い受けます」と書いてありました、、ということはつまり、ここにはトイレがあるということに他なりません。
私は断続的に襲ってくる腹痛に耐え、糞尿撒き散らし兼ねない便意を抑え込みながら運転席まで行きました。そして運ちゃんと交渉です。
何を言ってる、そんなことできるわけなかろう、と最初は取り合ってさえくれなかった運ちゃんですが、私のただならぬ顔色を見てバスの客から病人を出してしまうことの危機感を抱いたのか、
どうせバスはしばらく動けないから、そこのドライブインで薬を分けて貰って来るといい、、と言ってトビラを開けてくれました。
私はバスを飛び出し、可能な限り急いでドライブインのトイレに駆け込みました。そして、、、
無事、事なきを得ました。。
ドライブインの店主もとても親切でしたし、バスに戻って礼を言った私にバスの運ちゃんは優しかったです。
彼女は眠っていて、当初は騒ぎに気づかなかったようですが、バスがしばらく動かず、そうこうしているうちに私が戻って来た(外からバスに乗り込んできた)ので何かが起きたことに気づいたそうです。
大丈夫?と聞く彼女に、大丈夫だよ、と答えた私。
本当に大丈夫で良かった!!
これが私の人生最大の危機、です。。
その後何年かして、彼女は私のカミさんになりました。
今はカミさんと息子の三人家族です。