つみほ スレスレなるままに

現実と非現実の境目をふらふらと往き来するかのような日常の記録

今野敏さんの「隠蔽捜査」を読みました、一晩で、、引き込まれます、要注意!

私が人生の師と仰ぐ信頼する知人から、一冊の本を紹介された。

今野敏という作家の書いた「隠蔽捜査」というタイトルの小説だ。

絶対面白いから良ければ読んでみてよ。

小説と聞いて侮るなかれ、彼がそういうからには、ただの娯楽小説とは思われない。

きっと人生に役立つ教訓や人生を変えるための心得などを示唆してくれるに違いない。さっそく近所の書店に赴き、入手して読むことにしよう。

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今野敏『隠蔽捜査』は引き込まれます

隠蔽捜査と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。

囮り捜査や潜入捜査という言葉は比較的よく耳にしたことがありますが、隠蔽捜査というのは聞いたことがありません。

聞いたことがない言葉を耳にすると、これはきっと造語なのだと、つまり、本の作者が作り出したタイトルに過ぎないのだと思い込む。あまりいい傾向ではありませんが、私は当初、そのように感じ特に気に留めていませんでした。

また実際、隠蔽捜査というキーワードでググッても、この本のタイトルしか引っ掛かって来ません。けれども終盤になって、このタイトルがとても重大な意味を持っていることに気付かされます。

 

さて、刑事や警察官が主役の小説と言えば、私は太田蘭三の「顔のない刑事」シリーズや西村京太郎の「十津川警部」シリーズのように、一人のずば抜けて優秀な主人公が持ち前の行動力や明晰な頭脳で謎を解明していくスタイルが好みであったりしますが、隠蔽捜査にはそうした痛快活劇的な要素は一切ありません。

むしろ、主人公は堅物とも合理主義者とも思える、およそ人間的な魅力とは無縁な存在ですし、彼を取り巻く人々との見事なまでの噛み合わずぶりが全く共感を許さないのです。

痛快どころか痛々しく感ぜられ、果たしてこの本を読み切るまでモチベーションが続くか不安になりました。

 

ところがです。

ストーリーが進むにつれ、状況が複雑さを増すにつれて、このどうしようもなく見えた堅物男が、まるでずれていた歯車の芯が正常な位置に戻るが如く、取り巻く情勢にピッタリと噛み合っていくのです。

そしてそれと共に、この堅物の主人公の本質が明らかになり、それが不安定さの中で唯一の絶対的な安定感として君臨し、読者をも関係者の一人として惹き込んで行く。

こんな展開の難しい小説は後にも先にも、この隠蔽捜査しか私は知りません。

 

さて、世の中に出回っている本の多くがそうであるように、この本も、どこにでもある日常のワンシーンで始まり主人公のイメージを作り上げています。ところがこの主人公、、ひとすじ縄では利かないほど不思議な人物、一言でいえば変人。しかも本人はそれを自覚していません。。

小学生の頃、幼なじみの友だちから酷いイジメを受けていたことがあり、そのいじめをバネにして東大合格を果たし、更に国家公務員試験にも合格して官僚になったような人です。

 

この小説のストーリーの前段部分で、唯一主人公に共感した部分が小学生の頃に受けたいじめを回想して主人公が呟いた言葉、、

「いじめる側の意識はそんなものだ。だが、いじめられたほうは、おそらく一生忘れることはない」でした。

 

私は、小中高といじめられっ子でした。

当時のいじめを指して、今のような陰湿さはない、とよく言われますが、いじめられる側からしたら今も昔も大した違いはないのです。違いがあるとしたら、数の暴力が増えてきたかもしれないこと。

自らの手を汚すことなく、周囲の意識を巻き込んでじわじわと精神的に間接的に追い詰めていくような、まるでゲーム感覚のいじめが横行している印象が強いです。更には、エスカレートしたいじめを止める仕組みがなくなってしまったことも、違いの一つと言えるかもしれませんね。

 

読み終わってみれば、読み始めの段階で感じた違和感、主人公に共感できないもどかしさや苛立ちなどもすべて、終盤のクライマックスに繋がる布石であったことがわかります。

 

一筋縄ではいかない小説ですが、夏の夜長に読んでみられてはいかがでしょうか。

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気づけば一気に読んでしまった。睡眠時間を削って一晩で読み切るなんて何年ぶりだろう。

この小説を通して知人が私に示唆しようとしたもの、それは

原則を重視すること、、だと思う。

 

原則は、その人の立場や行動に合わせて異なるに違いないけれども、いかなる場合でも原則を重視しこれに従えば、適切な時に、適切な事柄を、適切な人に提供したり他の人と共有することができる。

それを示唆するために、この小説を勧めてくれたに違いない。